あなたと私の恋の行方
これまで部長にとって、恐らく長所だと言われてきたことの全てを否定してしまったようなものだ。
佐野部長がいつものように眉間に縦皺を寄せて、困ったような顔をした。
「いったいどうすれば、好きになって貰えるのかな?」
「え?」
なんだかいつもより甘えた声のトーンだ。
それに今、部長の口から思いがけない言葉が聞こえてきた気がする。
「好き? 今、好きっておっしゃいました?」
「そうだが」
「私が? 部長を好きになる?」
あまりに聞き返したからか、部長の顔がチョッと恐い。
「ほかに誰がいるんだ?」
「でも部長には恋人が……この前、ロングヘアのとても綺麗な方と歩いてました」
「ああ、離婚した妻かな?」
サラリと表情を変えずに言う部長は余裕たっぷりだ。
「モデルさんとか、あちこちの美人秘書さんとか、恋人がいっぱいいるとか」
「それは、誰の話だ?」
「あなたの話です」
咲子から聞いていた話のままに、部長に伝える。
言わない方がよかったかかなと思ったけど、社内の噂だから許して欲しい。
「そんな噂、誰に聞いたんだ」
「社内のあちこちで……噂されているそうです」
「はあ~」
佐野部長から聞こえたのは、いっきに力が抜けたような、ダルそうで深いため息だった。
「噂で酷い目にあいかけた人が、なに言ってるんだか」
「あ、私?」
そういえばそうだった。
さっきまで私は酷い噂のせいで窮地に立たされていたのに、今は佐野部長を前にして弱気にならないように意地を張っているだけだ。
「それで、他に嫌いな所は?」
これでもかと、佐野部長は私を追い詰めてくる。
言葉だけでなく、いつの間にか私たちの距離はとても近くなっていた。
私たちは会議室のまん中に、向かい合うように立ちつくしている。
「……キスが上手すぎるところ」
「もう一回するか?」
佐野部長がグイっと私を抱き寄せた。
頬が部長の胸に触れると、記憶にある香りと筋肉の固さを感じた。
「佐野部長、ここ会社ですよ」
「構わない。構ってなんかいられない」
額に軽いキスを落とされた。
「君は、目いっぱい構い倒さないと気持ちが伝わらないのがよくわったからね」
もうひとつ優しいキスが落ちてきた。今度は唇に軽く触れるくらいのものだ。
「部長、ここではダメです」
「好きな子にキスしちゃダメか?」
甘い言葉に抗えなくて、私は避けるどころかぐんぐん部長に体重を預けてしまう。
そうしていないと立っていられないのだ。
「取りあえず、付き合おう」
(え?)と思う間もなく、唇を食むようなキスが続く。
その感触に痺れながら、なんとか唇を逃れて部長に聞いてしまう。
「私のこと、大切にしてくれますか?」
「だから、こうしているだろう?」
今度はもっとキスが深くなった。
こんなキス、私には激しすぎてもうどうしていいのかわからない。
部長の手が動く度に、その温もりが私の身体中に満ちていく。
ああ……と、声にならない言葉が息を吐くように漏れて、私は気が遠くなりそうだった。
「これから、ゆっくり始めよう」
「あなたに、恋していいですか?」
「ああ。好きだよ、由香」
甘くて熱いキスは、しばらく続いた。
***
ご安心ください。
優秀な小谷が会議室を『使用中』にしていますから、甘い時間は誰にも邪魔されません。


