轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
「憧れの絵師がこんな奴で、がっかりしたんじゃないか?」

「何言ってるんですか。ちょっと想像の上をいくテンプレぶりで驚きはしましたが、狼犬《ウルハイ》が千紘さんで私は納得しています。って、何様でしょうかね、私」

テヘっと笑う清乃は、本当に嬉しそうに笑っている。

「納得?」

「ええ。千紘さんがトレーディングとイラストの仕事を両立させ、とことんクオリティに拘る環境を確立しているからこそ、あの素晴らしい作品の数々が生まれているんだなって、現場を見て思いました」

「男がまともな仕事もしないで、って思わないのか?」

「それって誰目線でものを言ってるんですかね?絵を描くのに男も女もないし、トレーディングだって立派な仕事でしょ?いっぱい体を動かしたり、上から目線で命令すればいいってものでもありませんよ。手先の器用さと頭脳労働に見合ったお金を稼いでるんですから、自信を持ってください」

「そうか、そうかもな」

「そうですよ。陰キャは否定しませんが、そこは誇りを失わないでください」

胸を張って言い切る清乃に、千紘は微笑む。

「ありがとう」

贈られたイケメンの笑顔と素直な御礼の言葉に

“課金させてほしい”

と清乃は悶えていた。

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