轍(わだち)〜その恋はお膳立てありき?
“神絵師は冴えないオタク”

“グローイングの社員の中には自意識過剰な男女(オトコオンナ)がいる”

“親の七光り。実力もないくせに”

滋子のパソコンを覗き込むと、様々な誹謗中傷が、グローイングのクレームセンター宛に投稿されていた。

しかし、どれも個人的な恨みというか蔑みにしか捉えられない内容だ。

「一般的なクレームと違い、個人への誹謗中傷の類は、キーワード形式でサーバー上ふるい分けされてこのセンターに転送される。だから一般人にアンチワードは共有されない」

できる男、対サイバーテロ要員の春日は表情を変えずに呟いた。

いちいち相手にしていては時間の無駄だし、際限がないからこういった嫌がらせは一箇所に集約して、基本無視するのが一番なのだそうだ。

しかし、単なる嫌がらせとはいえ、名指しで攻撃を受けるのは、当事者なら御免被りたい。

一端のネットイラストレーターとして活躍していた清乃だったが、そういったメンタルダウンの危険性を避けるため、エゴサーチは行って来なかった。

他者の意見に耳を傾け、自らを高め反省することも大切なことではあるが、ネットのコメントにはただの悪口も含まれている。

そんな中でのエゴサーチのリスクは大きい。

しかし、企業の立場となると話は別である。

本当に必要なクレームや真っ当な意見については耳を傾ける柔軟さも必要だ。

そこを無視してしまっては、成長や発展はありえないからだ。

「個人的なアクセスポイントを使ってこういったメールを送ってくる奴はほとんどいない。だが、どんなに隠れようとも足跡を完全に消し去ることは難しい。時間がかかろうとも絶対にこの勘違い野郎を暴き出してやる」

ブツブツと独り言を呟く春日は、口の端が少し上がっていて怖い。

清乃は、こんな長文を話している(呟いている)春日を見たのは初めてだった。

しかし、ネット経由で攻撃を受けた時の春日は、むしろこっちが通常モードらしく、拓夢も滋子も千紘も当たり前のようにスルーしていた。

兎にも角にもわかっていることは唯一つ。

犯人のお先は真っ暗ということである。

合掌。

< 59 / 73 >

この作品をシェア

pagetop