不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
そのとき突然話しかけてきた、多分同じ中学校だったであろう男子に驚いて、思わず携帯を落としてしまった。
慌てて拾おうとすると、彼がそれを代わりに拾ってくれる。
「はい、これ」
「あ、ありがとうございます!すみません、拾っていただいて……!」
「南野さんって喋り方がすごい丁寧だね」
「え、え?」
「中学ん時は気付かなかったんだけどさ、南野さんのお父さんってプロバスケの南野選手……で合ってる?」
「あ……、はい」
「やっぱり!南野さん俺のこと……って、知らないよな。同じクラスになったことないし。俺中学時代バスケ部だった多田ですこんにちは」
「こ、こんにちは!えっと、南野です。南野、伊都です」
お父さんのことを知っているということは相当なバスケ好きな方なのだろうけれど、同じクラスになったことがない彼の顔と名前が一致しない。
必死に思い出そうとしているけれど、どうやっても浮かばないから困った。