不器用なあの子は、今日も一宮くんに溺愛されている。
"私、実は他に好きな人がいるんです"
そう言おうとした言葉は、突然後ろからギュッと抱き締められた反動で途切れた。
引き寄せられるように肩の辺りに回された腕を掴んだ途端、優しく握り返されて触れたその一瞬で、相手が誰だか分かってしまった。
「久しぶりだね、伊都ちゃん」
「……律、くん?」
無意識に彼の名前を口にした瞬間、近くにいた同級生たちは一斉にこちらを向いて注目し始める。
まずい、と思ったときにはもう遅くて、律くんのことを知っている人たちは「嘘でしょ!?」「なんでここに居るの!?」とやや興奮気味に集まってしまい、あっという間に彼の周りは辺り一面グルリと人で埋め尽くされた。
「え、え!?ちょっと待って南野さんって一宮律と知り合いなの!?」
「え!?いや、あの知り合いと言いますか……その、」
「嘘!ウチこの前の試合テレビで観てたんだけど!ヤバい本人じゃん!」
「つーかニュースでもやってたよな、バスケ。章栄……だっけ?」
「あ、もしかして南野さんも同じ学校なの?」