エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
「お疲れ様です。白鳥部長、森名店長」

私たちに声をかけて来たのは、休憩から戻ってきた後輩スタッフでサブ店長の、吉野(よしの)千花(ちか)ちゃんだ。

「テラス席で打ち合わせですか? デート中のカップルかと思いましたよ〜!」

ニヤニヤ顔でからかわれ、私は慌てて片手をブンブンと左右に振った。

「そんなそんな、カップルだなんて……!」

白鳥部長に失礼だよ……。
もっとスマートに対応できたらいいのだけれど、恋愛経験皆無な私は頬が熱くなる。

「森名店長、ここでデートしたことは?」

すると、白鳥部長が真面目な顔つきで尋ねたので驚いた。
スタッフのこの程度の軽口なら、いつもは鷹揚な笑顔で終わらせるのに。

「な、ないです! デートする相手なんていませんから」

私はさっきよりも高速で手を動かした。

「店長になれたからには、恋人なんて作らずに仕事に専念するつもりです」

思わず語気が強まったのには理由がある。

前店長の亜紀さんは、白鳥部長と同じ年の二十九歳。
スタッフや常連客たちから慕われ、とても綺麗でおおらかで、笑顔が素敵な女性だった。

ご実家の喫茶店を引き継いでカフェバーとして再オープンさせるために退職したけれど、未だにスタッフたちの間には亜紀さんロスが蔓延し、惜しまれている。

そんな人気の亜紀さんには、どう足掻いたって到底及ばない。
だからこそ今は仕事に集中して、スタッフたちが亜紀さんがいなくても安心して働けるようにがんばらなくちゃ……。

「まだ自信はないですけど、みんなから信頼されていた亜紀さんみたいな店長になりたいので……」

赤面しながら気持ちを伝えた私に、白鳥部長は眉根を寄せてどこか切なげに微笑んだ。

「たしかに亜紀さんは素晴らしい店長だったし、素敵な女性だから目指すのはかまわない」

そこで一旦言葉を切った白鳥部長は、よどみのない目で私を射貫く。

「でも、比べるのは不毛だ。きみはきみらしく、等身大の森名店長がいいと思う」

とくんと鼓動が響くとともに、胸のすく思いがした。
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