エリート御曹司は極秘出産した清純ママを一途な愛で逃がさない
やがてお腹が大きくなり、母は自分の妊娠経験を私に話してくれるようになった。
母も最初は不安だったけれど、私が生まれてどんなに幸せだったかを。
幼い頃の温かい思い出話で涙するときもあった。

予定日が近づくにつれ、母の私に対する態度は次第に軟化し、眼差しにも優しさがあふれてきた。

そして出産後は、沐浴を手伝ってもらったり、抱っこを代わってもらったり。

気持ちをわかってくれるまで時間はかかったけれど、今は積極的な協力に心から感謝している。
母がそばにいてくれるのは心強かったし、光太の日々の成長をそばで見守ってくれる味方の存在はとても大きいものだった。

親子三世代で楽しく暮らす日々は穏やかに過ぎてゆき、季節はめぐり、また春がやってくる。

薄紅色の花びらがまだ冷たさの残る春風に舞い散り、葉桜になる頃。
愛息子の光太は一歳四ヶ月になっていた。

「映美、光太がお茶を溢しちゃった!」

キッチンで水筒にお茶を淹れていると、リビングから母の声が響いた。
光太はまだコップで飲むのが上手ではない。

私はキッチンの棚から乾いた布巾を取り出し、急いで光太のもとに駆け寄ってテーブルの上と下を拭く。
ぼんやりとテレビで流れる朝のニュース番組を見ている光太の服は、奇跡的に濡れていなかった。

「よかった、セーフ」

ビショビショに濡れた食事用エプロンを新しいものに代え、空になったコップを流し台に置くと、お茶をストローマグに入れて光太に手渡した。

すると、子ども用の豆椅子から立ち上がった光太が、キラキラと目を輝かせてテレビ画面を指差す。

「ニャンニャン!」

最近少しずつお喋りが上手になってきた。
光太はニュース番組のキャラクターである猫の着ぐるみが大好きで、毎朝このキャラクターが出るお天気コーナーを楽しみにしているのだ。

「ほんとだ、ニャンニャンだね。でも光太、早くおにぎり食べないと出発の時間になっちゃうよ」

朝はどうしても時間に余裕がなくてついせかしてしまう。
光太の前にあるお皿には、手掴み用の小さなおにぎりがまだたくさん残っていた。
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