新そよ風に乗って ① 〜夢先案内人〜
「そうですか。明日、楽しみにさせて頂きます」
「ハハッ……。随分とまた自信たっぷりな言い方だな。社長の恩恵も、いつまで続くことやら。それじゃ、失礼するよ」
「失礼します」
資料をすべて見られる立場にある高田さんを敵には回したくはなかったが、やりづらいなどとは言ってはいられない。そんなことに無駄な時間を取られてしまう方が、今は頭が痛かった。次々に決めていかなければならない子会社の独立採算制をとった後、軌道にのせてから迎えたい六月の株主総会。その前の決算は、もっと重要になってくる。対人関係と一度決まった方針を覆そうとする抵抗勢力への説得。やり甲斐があるといえば、そうかもしれないが、もっと別のことに奔走したい。
そして迎えた翌日。高田さんも出席した役員会で、開口一番。高田さんが口にした言葉は、俺の予想を遙かに超えたものだった。
「監査法人の命を受けて会計監査の任務に当たらせて頂いております、社外第一会計士の立場からひと言申し上げさせて頂きます。役員会議は役員の皆さんが出席されるという重要な会議でもあり、経営を左右する重大な事項の議題も話し合われます。その会議に御社の一平社員が出席しているというのは、如何なものでしょうか? 御社役員協定第三項にもありますとおり、役員会及び臨時役員会を招集する場合、速やかに各役員は規程に定める事項以外の欠席は認めないとする。と、ありますように、欠席も規程事項以外は認められないとする会議であり、第四項には、役員以外の代理出席も認めないともあります。従いまして、会計監査の一平社員が出席することは、役員協定違反に抵触すると思われます。この件に関して、即刻、ご判断をお願い致します」
高田さんの言動によって、会議室内にどよめきの声があがっていた。
「役員協定に抵触するなどとは、また穏やかな話じゃないですな」
そのどよめきを消し去ったのは、専務のひと声だった。