恋文の隠し場所 〜その想いを読み解いて〜
「メディアに出てみようって思えたのも、杏凪さんのおかげです。自分は自分、それでいいんだって、言ってくれたから」

「先生……」

 優しい手の温もりと、紡がれる夢みたいな言葉に、心が震えた。
 目頭がジンとして、気付いたら涙が頬を伝っていた。

「だから、杏凪さんに気持ちを伝えるなら、文字を書いて伝えようと思いました。一緒に読み解いた恋文のように、伝えたいと思いました」

「でも、あの書き方はズルいです。……私、最初あの恋文の現代語訳だと思って――」

 顔を上げると、先生がはっと目を見開く。それから、柔らかな親指の腹で、優しく頬をなぞり、溢れた涙を拭ってくれた。

「仕方ないじゃないですか。あの恋文を記した彼女の気持ちと、私の気持ちが同じだったんですから」

「本当、ズルい……」

 先生はふふっと笑った。

「私はズルい男です。ズルい男は、嫌ですか?」

 ――だから、その聞き方がズルい。

「嫌なわけ、ないじゃないですか……」

 先生の目を見つめた。
 眼鏡の奥の彼の瞳に、私がだけが映っている。
 その事実がどうしようもなく嬉しくて、泣いているのに頬が緩んでくる。

「可愛いですね」

 その言葉に、急に顔全体が熱くなる。
 すると、先生の目が、口元が、優しく細められていく。

「……もう!」

 思わず視線をそらせば、ふふっと笑い声が聞こえた。

「すみません、杏凪さん、ひとつだけ……」

「何でしょう……?」

「『先生』っていうの、やめてもらえませんか? 何だか、いけないことをしている気がしてしまって」

 ハッとした。
 デジャブだ、と思ったが、あれは夢の中の話だ。
 先生は知らない。顔をそむけていてよかった。
 それなのに。

「こっちを向いて、名前を呼んでくれませんか?」

 顎に指を置かれ、クイッと先生の方を向かされた。ニコニコと微笑む先生の圧に、「言えません」とは言えなくなる。

「えっと……佳之、さん」

 その瞬間、唇に柔らかな感覚を覚えた。
 口づけだと気付いたのは、彼の唇が離れていってからだった。

「好きです、杏凪さん」

 彼はそう言うと、もう一度私の唇に優しい口づけを落とす。

 ――私も、好きです。

 思いを込めて、私も彼の唇に自分のそれを押し付ける。

 幸せが胸に流れ込んできて、いつものマイナス思考が入り込む余地もない。
 プラスな未来を想像しながら、ほのかに墨の香りを感じる彼の部屋で、私は彼のキスに酔いしれた。



〈完〉
< 32 / 32 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:61

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
夕日は嫌いだ。 あの日を思い出すから――。 日本有数のラグジュアリーホテル 桜堂ホテル・トウキョウ 自身の不運な運命から逃れるように そのホテルの清掃員として就職し 仕事にも慣れてきた依恋 いつものように清掃を行っていると、 階段の上から王子様が落ちてきて――!? ✾ ✾ ✾ ✾ ✾ 駆け落ちした父は立花財閥の息子だった 引き取られた先から逃げ出したシンデレラ 立花 依恋 Ellen Tachibana × 本心の読めない 温和怜悧な桜堂財閥の御曹司 桜堂ホテルグループ・総支配人 桜堂 悠賀 Haruka Sakurado ✾ ✾ ✾ ✾ ✾ 嫌な記憶を塗り変えるくらい 幸せをくれる彼に いつしか芽生えた想い けれど、これは “許されぬ恋” その優しさは、罠――? 2023.10.23 START 2023.10.28 完結 伊桜らなさん 素敵なレビューありがとうございます 第8回ベリーズカフェ短編小説コンテストにて 最優秀賞を頂きました。 ありがとうございます!
我が町のヒーローは、オレンジでネイビーで時々グレー

総文字数/30,470

恋愛(ラブコメ)24ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「恋人は作らない」って、 この恋、始まる前から玉砕フラグ!? 「俺に惚れるな、絶対に」 恋に予防線を張りまくる消防士、 黒岩誠護。 火事の中、彼に助けられた保育士、 寺坂紅音。 ひょんなことから交わり始める、 2人の人生。 『どうしよう、好きになっちゃった』 叶わない恋に、募る想い。 紅音の恋の行方は……? ※物語内に出てくる保育園、また物語内で 起きた事故等は全てフィクションです。 *** 2023.01.31〜 オススメに掲載いただきました。 たくさんの方にお読みいただき感謝です!
表紙を見る 表紙を閉じる
前世でハマった乙女ゲームの 悪役令嬢(今は王太子婚約者)に 転生していたことに気づいた私 前世での推しは ブラン元隣国騎士団長! (今は隣国王子の専属護衛) ならば王太子は潔く正ヒロインに譲り 破滅フラグを回避して ブラン様とお近づきになっちゃおう! ……と思ったのに、 王太子が離してくれません(泣) ✻**✻**✻**✻**✻ 「ブラン様が三次元……ヤバい、尊死」 前世ではオタクな悪役令嬢 エレーナ ✕ 「君は、私の大切な婚約者だからね」 正ヒロインが目に入らない王太子 レオン ✕ 「叶わない恋は、するもんじゃないさ」 イケオジ元隣国騎士団長 ブラン ✻**✻**✻**✻**✻ 私は爽やか王太子よりも ブラン様みたいな 無骨な筋肉男子が好きなのっ! 元隣国騎士団長様と恋に落ちるには どのルートを辿れば良いですか!? ✻**✻**✻**✻**✻ 2023.07.18〜 オススメに掲載いただきました。 たくさんの方にお読みいただき感謝です!

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop