月下の逢瀬
車は、目的地があるのかどんどん街を離れていく。


「今日は、天気がいいね」


景色の変わる車窓を眺めていると、先生が言った。


「あの、どこに行くんですか?」


「ん? ちょっと行きたいとこがあるんだ。まあ、景色の綺麗なところだし、ドライブを兼ねて、ね」


行きたいところ?
小さく首を傾げたあたしに、先生が言った。


「それより、この間は、宮本とケンカにならなかった?」


「え?」


「文化祭の日。ずいぶん大人げないことしたな、って後で思った」


くす、と笑う先生に、あの日の凍りついた時間を思い出した。


「……ああいうこと、もう止めて下さい」


先生に会うことになってから、それだけは言おうと思っていた。
あんな時間をこれからも過ごすなんて、できない。


「しないよ。椎名のあんな傷ついた顔みたくないから、やったのに。益々傷つけたから」


「……どういう意味ですか?」


「宮本と久世が並んだとき、椎名は泣きそうな顔してた」


目の前の信号が赤に変わり、車が止まった。


「腕を組んだ二人を見て、今にも泣き出しそうだったよ」


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