月下の逢瀬
理玖に全てを話してしまおうか、とも思う。
先生にバレてしまった、と。


……ううん。言えない。


理玖の横には玲奈さんがいる。
そんな理玖に相談して、理玖に問題を抱えさせるわけにはいかない。
これ以上、他の人に気付かれるようなことになったらどうするの。


はあ、と再びため息をついた時、駐車場にすいと車が入ってきた。
運転席には片桐先生の姿が。
あたしを見てとると、片手をあげてにこりと笑った。
それに小さく会釈を返しながら、手にしていたバッグをぎゅっと握りしめた。



「待たせたかな? 乗って」


「あ、はい……」


おずおずと助手席に乗り込む。
先生のタバコの匂いの混じった香りがして、とっさにあの日のことを思い出した。


「そんなに警戒しなくても、嫌がるようなことはしないよ」


くすりと先生が笑った。


「……あ、その。はい」


あたしの緊張が伝わったのかな?
でも、そんなことを言われても、簡単に安心できるはずない。
頷きながらも、強張ったままの体をシートに預けた。


「さ。行こうか」


車はあっさりとコンビニを離れた。


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