月下の逢瀬
今までそれを口にできなかったのは、そんな優しさでもあたしは縋りたかったからだ。
佐和さんに向けられたものであっても、あたしは側にいてくれる先生に助けられていた。


だけど。


「あたしは佐和さんじゃない! 先生だって結局あたしを二番目に見てるんでしょうっ?」


荒ぶった心は、口を勝手に動かした。



言いながら、思った。

あたしは、最低の馬鹿だ。
完全に八つ当たりだ、これは。


先生を利用していたくせに、ちょっと咎められたら責めるなんて、駄々っ子の行為だ。


謝らなくちゃ、と思った。
こんなこと言ったらいけない。

だけど嗚咽しかでてこなくて、あたしはみっともないくらい泣いた。



「……ごめん、考えなしだった」


謝罪の言葉を口にしたのは先生だった。


「椎名が普通の状態じゃないことなんてすぐわかることなのに、悪かった。
酷いこと言ったよな」


「ち……ちが……」


ぶんぶんと首を横に振った。
悪いのはあたし。

先生は何もしてない。


「ごめん、椎名。一緒に考えよう、な?」


大きな手のひらが、あたしの頬を包んだ。
力強く、涙を拭う。


「頼ってくれたのに、な」


「ち、違うの……。ごめんなさ……」

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