月下の逢瀬
「あれ? 笹野さん、ここで待ってろって言ったのはママよ?」


あたしの後ろを見上げて、琴乃ちゃんが不満そうに言った。
振り返ると、グレーのスーツを着た男の人が立っていた。

片桐先生よりいくつか上、かな。
能面のように表情のない顔は整っているけれど、冷たくて。

あたしをちろりと見下ろした切れ長の瞳は、値踏みするように不躾だった。


「こちらは玲奈様のご学友、ですか?」


「そうよ、お見舞いに来て下さったの。ほら、これ」


花束を掲げる琴乃ちゃんをちらりと見て、


「そうですか。わざわざ申し訳ありません」


と、薄い唇の端を少し持ち上げるだけの笑みをあたしに向けた。
それからすぐに、琴乃ちゃんに視線を戻して。


「それよりも、奥様がお待ちです。
会食の時間が迫っておりますので」


「えー。私まだお話したいのに」


「お早く願います」


「ママ、玲奈の病室にも入ってないままよ?」


「琴乃様」


むくれる琴乃ちゃんを、笹野さんが一際低い声で呼んだ。
それにしぶしぶといった様子で、琴乃ちゃんが立ち上がった。


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