月下の逢瀬
ふいに、お腹に刺すような痛みが走った。

「った……ぁ」


咄嗟に手をあてた。
生理痛にも似た、腰に響く痛み。


生理痛?


「や……やだっ!」


もしかしてお腹の赤ちゃんに何かあったんじゃ……!?

どうしよう!

血の気が引くと同時に、お腹に再び痛みが走り、思わずうずくまった。
こんな痛み、今まで経験がない。


「びょ、病院……。あ、ダメ……」


来た道を振り返る。
ずいぶん歩いていたのか、片桐病院の姿はもう見えない。
こんなに痛むお腹で、再び歩いて戻れない。

周りを見渡しても、行き交う車は速くて、あたしに気付くことがない。



痛みのせいで、汗が一筋流れた。


早く、どうにかしなくちゃ……。


赤ちゃんが死んじゃう!!


震える手で、ケータイを取り出した。


真っ先に思い付くのは、たった一人。

数コールして、低い声がした。


「助けて……っ! 先生!」







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