月下の逢瀬
「よかったのか?」


ぽすん、と座り直したあたしに、晃貴が聞いた。


「話す時間くらい……」


「いい。これで、よかったんだよ」


ふるふると首を振った。


「あたしは……晃貴さんとの道を選んだんだから。
それに」


自分に言い聞かせるように言って、眉間にシワを刻んだ晃貴に笑いかけた。


「幼なじみが、見送ってくれた。それだけじゃない」


そう、それだけ。
ただ、幼なじみのあたしのことを少し心配してくれただけ。


「そう、か」


ぎこちなく晃貴が笑う。
その笑顔に、晃貴を不安にさせたのかもしれない、と気付いた。
未練がましく振り返っていたあたしを、晃貴はどんな気持ちで見ていたんだろう。


あたしのことを真剣に愛してくれている人に、そんな思いをさせてはいけない。
あたしが応えていかなくちゃいけないのは、この人なんだから。


戒めてくれた左手で、晃貴の手をとった。
この手をとると決めたのだから、裏切るなんてしたくない。


「そ、そんなことよりっ、お腹空いちゃった。空港ついたら何か食べたいな」


きゅ、と握った。

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