月下の逢瀬
ゆっくりと遠ざかる姿。
一歩、理玖が足を踏み出すのが見えた。
その顔は、切なげに歪められていて、胸が締め付けられる。



……理玖。
何で来たの?
何であんなこと言うの?


嫌っていてよ。
あたしのことなんて、忘れていてよ。
選んだ人のところにいてよ。


こんな場面でこんなの、ないよ。
どうにか終止符を打てたはずの想いが、暴れだしちゃうよ。


離れたくない……って。



衝動的に、ドアに手をかけていた。


「…………っ!」


左手。
そこには昨日はめられたばかりの指輪が光っていた。

その静かな輝きに、我にかえる。


――何のために、離れたの?
  この衝動の先には、涙しかないでしょう?


そう。
泥沼のような、悲しみと憎しみしか待っていない。



ふ、と力が抜ける。
小さくなっていく姿は、曲がり角と共に消えた。


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