月下の逢瀬
「優月(ゆづき)ー。ママとお散歩行こっか?」


「さんぽ、いく!」


気持ちのいい、ぽかぽかした春の陽気の昼下がり。
退屈そうにあくびをした優月に言うと、途端にはしゃぎだした。


「やっぱりおもちゃを買っておくべきだったわー。
ママがいらないなんて言うから、ねえ」


おじいちゃんに買って帰ってもらおうか、と優月の顔を覗きこむようにして言う母は、すっかりおばあちゃんの笑顔になっていた。


「どうせすぐ飽きちゃうんだもん。いらないってば」


「買いたいのよー。めったに会えないんだもの。喜んでもらいたいじゃない」


「ママ! さんぽ!」


抱きしめようとする母の腕から逃れて、優月が駆け寄ってきた。
まだ少し頼りない足運びで、飛びつくようにくっつく。


「はいはい。じゃあ、ちょっと出かけてくる」


優月を抱き上げて、玄関へと向かった。


「おばーちゃ、ばいばーい」


小さな足に靴をはかせると、優月は楽しげに手を振った。


「はーい、ばいばーい」


とたとたと歩く優月と共に、家を出た。


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