月下の逢瀬
文庫本の棚の前で、面白そうな本を物色する。
せっかくだから、明るい話でも読もうかな、そんなことを考えながら、たくさんある背表紙の文字を指でたどる。
「――やっぱり椎名だ」
後ろから名前を呼ばれた。
振り向くと、真後ろに片桐先生が立っていた。
「わ、びっくりした。先生、気配消さないでください」
いつものかっちりしたスーツではない、シャツにパンツ姿のラフな格好の先生は、文庫本を数冊手にしていた。
先日のことを思い出して少し緊張したあたしに気付く様子もなく、にこりと笑う。
「さっきから椎名じゃないかって思ってた。一人?」
「あ、えと、はい。先生もですか?」
「ああ。休みの日はヒマで、本を読むしかない」
先生は持っている文庫本を掲げてみせた。
「あ! それ読みたかったやつだ。面白いですか?」
それは、前々から気になっていた、シリーズで刊行されている推理小説。
「面白いよ。この新刊を足したら、刊行分は全て持ってるから、今度貸そうか」
「あ、嬉しいなー。冊数が多いから、買うのをためらってたんですよね」
せっかくだから、明るい話でも読もうかな、そんなことを考えながら、たくさんある背表紙の文字を指でたどる。
「――やっぱり椎名だ」
後ろから名前を呼ばれた。
振り向くと、真後ろに片桐先生が立っていた。
「わ、びっくりした。先生、気配消さないでください」
いつものかっちりしたスーツではない、シャツにパンツ姿のラフな格好の先生は、文庫本を数冊手にしていた。
先日のことを思い出して少し緊張したあたしに気付く様子もなく、にこりと笑う。
「さっきから椎名じゃないかって思ってた。一人?」
「あ、えと、はい。先生もですか?」
「ああ。休みの日はヒマで、本を読むしかない」
先生は持っている文庫本を掲げてみせた。
「あ! それ読みたかったやつだ。面白いですか?」
それは、前々から気になっていた、シリーズで刊行されている推理小説。
「面白いよ。この新刊を足したら、刊行分は全て持ってるから、今度貸そうか」
「あ、嬉しいなー。冊数が多いから、買うのをためらってたんですよね」