月下の逢瀬
「椎名は何か買うの?」


「いや、探していたのが在庫切れらしくて。
それで他に面白そうなのを探してたんですけど、なかなかないです」


肩をすくめて言うと、先生があたしの背にある棚に歩み寄った。
す、と横に立った先生は、思いのほか背が高いことに気がついて、その横顔を見上げた。

さらりとした黒髪、鼻筋の通った端正な顔。
意思の強そうな瞳は深い黒。

まじまじと見たことなんてなかったけど、先生って整った顔してるんだ。

なる程、学校の女の子たちから人気があるわけだよね。


「どんな本がいいの?」


と、綺麗な瞳があたしに向けられた。


「え? あ、えーと、ちょっと笑えるような明るい話を」


慌てて本棚に視線をやって答える。


「ふーん、なる程」


長い指が、並ぶ背表紙を辿る。
ごつごつした指は大人の男の人のもので、理玖の指より少し太いのかな、とか考えてしまう。


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