月下の逢瀬
「あ。これ、結構面白いやつ。エッセイなんだけど」


ぴたりと指先がとまり、本を抜き取った。
はい、これ、と渡される。


「この作家の本は、読んだことないな。歴史小説の人でしょ?」


「そうそう。歴史小説は苦手?」


「ちょっとだけ。戦国時代が苦手なんです」


「そかそか」


あたしの手の本を本棚に戻し、再び背表紙を辿る。


何か、学校で話すよりもくだけた感じだなあ。
今はプライベートだし、校内と違っても当たり前なのかもしれないけど。


不思議な気持ちで横顔を見上げた。


「ん? どうした」


「いえ別に。先生、本お好きなんですね」


「ああ。椎名も好きなんだろ? このシリーズなんて、結構渋いセレクトだ」


あたしにちらりと顔を向けた先生が、手にした本を軽く振った。


< 38 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop