月下の逢瀬
「渋いかどうかわかんないですけど、本は好きですね」


「そか。あ、これはどう? 軽いミステリーなんだけど、笑えた」


先生が一冊抜き取って、差し出してくれた。
それはまだ読んだことのなかった本。


「じゃあ、これにします。それと、さっきのエッセイも」


「あ、そう? 両方おすすめだから」


先生はもう一冊も抜き取ってくれた。


「あの、ありがとうございました」


ぺこっと頭を下げる。


「おう。それで椎名は、これから何か用事ある?」


「もう帰るつもりでしたけど」


「じゃあ、昼飯でも一緒にどう? もう昼時だし」


先生は店内の時計を指差して言った。


「え? でも……、せっかくの休みに悪くないですか?」


「何が?」


「お休みの日に、学校の生徒と一緒なんて、仕事みたいな気分になるでしょう?」


あたしのことは気にしなくていいですよ、と付け足す。

生徒に会ったからって面倒見てたら、せっかくの休みがもったいない。


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