愛よりもお金が大事。



「あの岡崎社長、タクシーの中でも話しましたけど、母親が心配なので泊まる事は出来ないです」


タクシーの中でそれを伝えたが、念の為にもう1度。
その理由を話すついでに、双子の弟妹にこれからお金が掛かる辺りの事も、この人には話した。



「分かってる。終わったら夏村さんの事はちゃんと帰してあげるから」


終わったら、とか、なんか生々しいな。
なんだか、此処に来て迷いが出てしまう。


目の前の岡崎社長を、今改めて向かい合ってじっくりと見るけど、
顔が良くて、背も凄く高くスタイルが良くて。
年齢よりもとても若く見えて。
話しやすく、一緒に居てとても楽しい人。


そして、大きな会社の創業者で、お金もあって。


なのに、一切恋しい気持ちはこの人に湧かなくて。
そう思うと、冬野の事を考えてしまう。


冬野は、今は何をしているのだろうか?


もしかしたら、今夜は栗原さんと食事にでも行って、そのまま……。


「じゃあ、はじめよっか?」


それに、体がビクリと震えた。
目が合って微笑まれるけど、怖い。


「あ、あの、私シャワー浴びて来ますね?」


この場から逃げたくて、そう口にしたけど。



「えー、その前にちょっとくらい味見させて?」


固まって動けない私に、岡崎社長は近寄って来ると、
私の肩に手を置き、空いてる左手を、私の右頬に添えた。


ゆっくりと、岡崎社長の顔が近付いて来て。
キスされる、と反射的に目をギュッと瞑るが。


岡崎社長の体を、両手で強く押してしまった。

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