転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
袖を握っている手に、無意識に力がこもった。彼女が逸生さんから手を離さないからか、モヤモヤがどんどん募っていく。
でも、どうしてこんなにも気持ちが沈むのか、自分でもよく分からなかった。ただただ居心地が悪くて、目を背けたくなる。
そんな私を余所に、白鳥さんは逸生さんの胸元に手を添えたまま、目元をバサバサさせながら彼を見上げる。
「専務にお会い出来るなら、新しい浴衣を着て来ればよかった」
「はは、その浴衣も十分似合ってますよ。素敵です」
「ほんとですか?専務に褒められると嬉しいな。あ、でもそちらの秘書さんもとってもお綺麗だわ」
ふいに彼女の視線が此方に向いて、思わずドキリと心臓が跳ねた。「モデルさんみたいで羨ましい」と目を細める彼女に、どう返せばいいのか分からず言葉に詰まる。
「そうだ、ご挨拶遅れてごめんなさい。わたくし白鳥と申します」
「…秘書の岬です」
よろしくお願いします。と頭を下げる白鳥さんは、目黒さんと違ってあからさまに敵意を向けてはこない。目黒さんに比べたら感じがいいけど、この人も逸生さんを本気で狙っているのは、態度からひしひしと伝わってくる。
「そうだ専務。先日社長と少しお話しして、またそちらにお邪魔させていただくことになりました。専務ともお話したいことがたくさんあるので、ご都合のいい日をまた教えてください」
「…分かりました」
白鳥さんは父親が白鳥グループの代表で、九条と同じように様々な事業を手掛けているらしい。そのため、九条とも取引が多いと資料に書いてあった。
恐らく今年度中には逸生さんの婚約者が正式に決まるだろう。そのため、どの婚約者候補も選ばれるために必死なのが伝わってくる。