転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

唇が離れたと思ったら、また重なる。昨日とは違う、啄むようなキス。
いつの間にか後頭部に回っていた逸生さんの手が私の髪をくしゃりと撫でると、そのまま優しく引き寄せられた。

決して激しくはないけれど、角度を変えて何度も降ってくるキスに、自然と甘い吐息が漏れる。

やっぱり逸生さんとのキスは気持ちいい。離れる度に“あと少し”と心が縋ってしまう。

ほんと、クセになりそう。


「…ありがとうございました。何だか、ぐっすり眠れそうです」

「……」

「おやすみなさい」


心が満たされた途端、急に襲ってきた睡魔。耐えきれずうとうとしていると「寝ていいよ」と、優しい声が鼓膜を揺らした。

ゆっくりと目を瞑れば、すぐに頭に浮かんだのは逸生さんの顔。思えば、昨日キスをした直後から逸生さんのことばかり考えている。

逸生さんのそばにいたくて、触れたくて、キスしたくて堪らない。すぐそばに逸生さんの体温を感じるからか、余計に気持ちが溢れて止まらなかった。


もしかして私、逸生さんのことが好きなのかな。


誰かに恋をしたことなんてないから、よく分からないけれど。これが恋じゃなかったら、他に何があるの?ってくらい、“好き”という言葉が出た瞬間、妙に納得してしまった。



まぁ、好きになったって未来なんてないんだけど。


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