転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

ドクン、と心臓が波打って、一気に脈が早くなる。思考が停止して、今なにが起こっているのか一瞬分からなくなった。

これって、逸生さんの話をしてる?秘書って私のこと?社長に報告って、一体なに?

次から次へと入ってくる情報を処理し切れない。
でもひとつだけ分かるのは、聞いてはいけないものを聞いてしまったってこと。

ヒソヒソとした話し声は、よく耳を澄まさないと聞き取れないほど小さいけれど。まるで周りの世界から遮断されたように、なぜか中にいるふたりの声だけが自然と私の耳に入ってくる。

さすがにこのタイミングで応接室に入るわけにもいかなくて、仕方なくドアの前で待機することにした。そうしている間も、ふたりは会話を続ける。


「とりあえずやれることは全てやって、何としてでも九条を手に入れましょ。婚約さえしてしまえばこっちのもんよ」

「そうですね。あなたの演技もなかなかお上手です。本人は疑いの目を向けているみたいですが、それこそ社長と副社長を説得すればいいみたいですし」

「そりゃ社長も私達には何も言えないでしょ。むしろ出来損ないの息子が白鳥と一緒になれるなんて、泣いて喜ぶわ」

「昔はかなり悪ガキでしたからね。殴り合いなんてしょっちゅうでした。親が金持ちで助かったでしょうね。あなたと婚約するのが、彼にとって何よりの親孝行じゃないですか?」


彼女達が話している内容は、思わず耳を塞ぎたくなるようなものばかりだった。

こんな人が逸生さんの婚約者候補なんて、考えたくもない。

お盆を持つ手が震える。怒りのような、悲しみのような、何とも言えない気持ちになる。

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