転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「違う…?」
「私、他に好きな人がいる。その人ことが忘れられない。たぶん、これから先もその人を超える人は現れないと思う」
「……」
「他の人と結婚すれば忘れられるかなって思った。でもやっぱり、その人じゃなきゃ無理みたい。私の中でその人の存在がどんどん大きくなってるの。こんな状態のまま他の人と結婚しても、相手に失礼でしょ?だから…」
紗良。──矢継ぎ早に喋り続ける私を遮るように、母の声が鼓膜を揺らす。
「その紗良の好きな人とは、結ばれることはないの?」
「…うん、ない。その人は会社のために政略結婚するから。私と違って、責任感が強い人なの」
瞬きをした瞬間、目に溜まっていた涙がぽろぽろと零れ落ちた。近くにあったティッシュをお母さんに差し出され、これ以上メイクが崩れないよう慌てて目頭に当てる。
「そっか。それはつらいね。そんなつらい時に、お見合いの予定入れちゃったのね。紗良がこの家に帰ってきた時、もっとちゃんと紗良の話を聞いてあげればよかった」
「それは違うよ。私が話さなかっただけだから。それに、春になったらお見合いするって言ったのは私だし」
「ううん、子供の変化に気付いてあげられないなんて親として情けないわ。だから、やっぱり今日はドタキャンしちゃおっか」
「…え、」
突拍子もないことを言い出す母に、思わず目を見張った。
「いいよ、お母さんは。紗良のためなら、後で頭を下げに行くのも苦じゃないし。そんなことより、紗良の泣き顔を見る方がつらいもの」
ふふ、と笑い声を漏らすお母さんは、かなり無責任な発言をしているにも関わらずどこか楽しそう。
思わず怪訝な目を向けるも、母は続けて口を開いた。