転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「お母さんは大好きな人と結婚出来た。大変な時期もあったけど、今でも幸せだなって思う。そんな成功例があるのに、可愛い娘に好きでもない男と結婚してほしいなんて思わない。お見合い自体が苦痛なら、ドタキャンしましょ」
「…でも」
「大丈夫よ。お母さん今とてもテンション上がってるの。紗良が初めてそういう話をしてくれたのが嬉しくて。もちろんお父さんには内緒にするわ。ずっと憧れてたのよ、娘と恋バナするの」
「お母さん…」
「あーなんだかわくわくしてきちゃった。だって、お父さんが家族と縁を切るって言って私を選んだ時に少し似ているんだもの。スリルって言うのかしら」
ダメな親ね。そう言って笑うと「スカートもキツいし、丁度よかったわ」と、何もかもポジティブに捉える母に唖然としてしまった。
「それより、晩御飯何にしようかしらね」鼻歌をうたいながら冷蔵庫に向かう背中を見て、母は偉大だと改めて思った。私は周りを敵に回してまで逸生さんを選ぶ勇気はなかったから。
きっと私が思っているよりも何倍も苦労をしてきたであろう母の言葉は、今の私の不安を取り除くのに充分だった。さっきまでと違い、心が軽くなっているのが分かる。
でもそれは、ドタキャンすることになったからではなく、
「お母さん」
「んー?」
「やっぱり行くよ、お見合い。ドタキャンはしない」
私にはこんなにも強い味方がいるってことが分かったから。
「え、お母さんのスカートどうするの」
「そのままで大丈夫でしょ。はち切れないようにだけ気をつければ」
「レストランで何も食べるなってこと?そんな拷問、耐えられないわ」
いつの間にか私の心配ではなく自分のスカートの心配をしている母に、思わず口元が緩んだ。