転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「……はい?」
蹲っている私のすぐそばで、男の声が聞こえた気がした。おずおずと顔を上げれば、しゃがんで頬杖をつきながら覗き込むようにして私を見ている、見知らぬ男と視線が重なった。
「何してんの」
「……」
同じ台詞を放った男を、まじまじと見つめる。
年齢は私より上だろうか。黒縁メガネをかけて、パーカーを深く被っている。片手にはスマホが握られていて、カメラをこちらに向けているようにも見える。
──もしかして、盗撮犯?
この人、すっごく怪しい。とりあえず適当にあしらって、一刻も早くここから逃げなくちゃ。
「…ちょっと目眩が」
「そりゃそうだろーな。あんだけ強く頭ぶつけたら」
見てたんですか?こんなに沢山の人が歩いているというのに、わざわざ私を見ていたですか?この男、やっぱり盗撮犯に違いない。
「おでこ、既に腫れてるけど大丈夫そ?」
「…え?」
怪訝に思いながらも、お酒を持っていない方の手でおでこを触ってみる。と、微かにたんこぶになっているのが分かったのと同時、ズキリと激痛が走った。
痛い。これは痛い。驚くほど痛い…けど、ちょっと………。
「記憶障害とかなってない?ここがどこか分かる?」
「…異世界ですか?」
「なんかやばい奴に声掛けたかも」
そう失礼な言葉を放った男は、何が面白いのか「はは」と声を上げて笑った。
私からしたら、この男も結構やばい奴だ。