転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「頭大丈夫?ちなみにここは現実世界ね」
若干ディスっているようにも取れる言葉を放った男は、私のおでこに視線を移すと「マジで痛そう」と苦笑した。
「…あなたはこんなところで何してるんですか」
話を逸らすように尋ねれば、黒縁メガネから覗く瞳と再び目が合う。フードを被っているせいかあまりハッキリ見えないけれど、私を捉えたその目は、切れ長でとても綺麗な形をしていた。
「もしかして盗撮してました?」
「え、まさか。何でそうなんの」
「だって、ずっとスマホ構えてるし」
「あぁこれね。盗撮じゃなくて、アプリゲーム」
「アプリゲーム?」
「そ。このゲームしながら歩いてたら、モンスターが飛び出てくんの。そのモンスターと戦って、捕まえるゲーム」
「……」
何なの、その珍なゲーム。ていうか、若い男がフード被ってゲームしながらフラフラしてるなんて、怪しいにも程があるわ。
「こういう事、よくしてるんですか」
「…まぁ、たまにね。息抜きに」
息抜き、ね。その気持ちは分からなくもない。
私と同じで、きっとこの男も生きづらさを感じているんだ。それを発散するためにゲームをする男と、転生しようとする女。…待って、私の方が怪しくない?