転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
「───と、まぁそんな感じなんだけど」
「…逸と会長らしいな」
小山が尋ねてきたから答えたのに、こいつなんでニヤけてんの。真面目に聞けよ。
「ちなみに岬さんが初恋だってこと、本人には…」
「伝えてない」
「だよな」
さすがに言えないだろ。あの一瞬の時間をずっと忘れられずにいたなんて。ダサ過ぎて死んでも言えない。
しかも向こうは俺のことを覚えていないし、そもそも紗良が本当にあの時の“さら”なのかも分からない。
でもあの冷めた目に、斜め上の発言。息を呑むほどの美しさは、あの“さら”に近いものを感じる。
「でもさ、それでどうやって付き合うことになったわけ?告白したのか?」
「告白…は、してないかも」
「え、うそだろ?」
「1年後に政略結婚するから、それまで人生最後の彼女がほしいってお願いした」
「てことは、1年限定?」
「まぁそうなるな」
「確かにそこは決定事項だから、自然とそうなるか。でも好きって言わずに、しかもそんな理由でよく付き合えなんて言えたな」
「うん。キミ面白いから、みたいな感じで必死に…」
「な、なんだそれ。そんなんで承諾した岬さんもすげーわ」
小山がドン引きてる。でもその気持ちは分かる。俺もこうして言葉にして、改めて変な提案だと思うから。
しかも初恋だと伝えるどころか、今まで誰も好きになったことはないと嘘までついている。そんな彼女に、今更好きなんて言えるわけがなかった。
でも、紗良がこの話を引き受けてくれた理由は何となく分かってる。それは俺が“人助け”という言葉を出したからだ。
一か八かの賭けだった。
あの時紗良が“困ってる人を見たら放っておけなくて”と言ったのを思い出して、その作戦に出た。
案の定、その言葉で表情を変えた紗良は、迷いながらも渋々頷いてくれた。
やっぱり紗良は、あの時の“さら”で間違いないと思う。