転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「てか、さっきからクスリとも笑わないよな。俺ってそんなに怪しい男に見える?」

「それもありますけど、私人前で笑わないって決めてるんです」

「えーなにそれ、そんな人いるんだ。あ、もしかして笑わないんじゃなくて笑えない(・・・・)とか?」

「いえ、笑わない(・・・・)んです」


いや、もう(・・)笑えないのかもしれない。私が笑わなくなったのは、何年も前の話だから。

正直、笑い方も忘れた。使うことがなくなった表情筋は、とうの昔にかたくなっている気がする。


そんな事を考えながら「俺の渾身のギャグくらい笑ってくれればいいのに」と肩を落としている男を真顔で見つめていれば、彼は上目がちに私を捉えると「もしかして、闇抱えてる系?」と尋ねてきた。


「怖い親で、笑うと殴られたとか。だから人生やり直そうと…」

「逆です。むしろ大事に育てられました」

「闇どころか幸せ者じゃん。だったら何で笑わねえの」

「…笑うと惚れられるので」

「すげー自信だな」


ここまでくると清々しいわ。そう続けた男は、ずっとしゃがんでいることに疲れたのか、大きく伸びをする。疲れたなら帰ればいいのに、「はぁ」と気が抜けるような息を吐いたかと思えば、綺麗な形をした目が再び私を捉え、ゆっくりと口を開いた。


「なんか、転生したいとか言ってる割には病んでるようには見えないんだよな」

「……」

「なぁ、なんで転生しようとしたか教えてよ」




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