転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「何であんなことしたの」

「…魔が差したと言いますか」

「どした?何か嫌なことでもあった?オニーサンが話聞いてやろうか」

「いえ結構です。これから転生して異世界で新しい人生を生きるので」

「やば」


ほんと面白いな。そう呟きながら声を出して笑うから、思わず怪訝な目を向けた。

この人、さっきからほんとよく笑う。こんな訳の分からない女に声をかけて、面白いって言いながら笑えるなんて。この男も、だいぶ頭のネジが飛んでいると思う。


「生きてたら楽しいこともあるよ。って言ったらカッコイイ?」

「……」

「あ、じゃあ俺がこれから楽しい話してあげる」

「……」

「布団がふっとんだ!」

「……」

「コンドルがめり込んどる!」

「……」

「おい、ここ笑うとこだろ」


笑うどころか顔を顰めた私を見て、男は「これ言うと大体の女はウケるのに」と不服そうにブツブツ呟く。

さらに眉間に皺を寄せた私に気付いた彼は「なぁ、嘘でも笑えよ」と困ったように笑った。


本当にこれで笑いを取ってきたのなら、どれだけ甘やかされた人生を送ってきたのだろう。まぁ見た感じ、この男も顔はなかなか整っているみたいだから、()をして生きてきた側の人間なのだと思うけど。

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