新そよ風に乗って 〜時の扉〜

社内旅行

「おはようございます」
「おはよう。ど、どうしたの? その荷物……」
ああ、言われてしまった。やっぱり直ぐ気づくぐらいの大量の荷物。駅まで行くのも一苦労だったが、混んだ電車に乗ってこの大荷物は本当に大変だった。
「いえ、その……」
「そうか。明日の帰りに、実家帰るとか何処か行くんだ」
中原さんから見たら、そのぐらいの荷物に見えるんだ。
「いいえ、社内旅行だけなんですが」
「ええっ? 矢島さん。そ、それでこんなに大荷物なの?」
「はい。すみません……」
「あっ、謝らなくていいよ。でもその荷物じゃ、電車大変だったんじゃない?」
「はい。もう周りの人にも迷惑だったと思います。網棚に載せたくても、届かないので無理だったもので」
「そうだよな。混んでるから、特に荷物多いと大変だ」
「何が大変なんだ?」
「高橋さん。おはようございます」
「お、おはようございます」
事務所に入って来た時に、経理部長と話をしているのが見えた高橋さんが席に戻って来てしまい、慌てて巨大なバッグを机の下に隠した。
「おはよう」
「それが、矢島さんの荷物が……」
「あっ、わ、私、ちょっと、ぞうきん取ってきます」
危ない、危ない。高橋さんにまで、巨大な荷物のことがバレてしまいそうだった。
仕事中も、周りの人達も今日の旅行のことで気もそぞろ。何となく、いつもよりみんな笑顔というか、動作も機敏に動いているように感じられてスムーズに仕事も捗り、退社時間になった。
しかし、書類がまだ少し残っている。全部終わらせてから行こうかな。このままじゃ、気になるし……。
「中原。これ終わらせてから行くから、先に矢島さんと一緒に行ってていいぞ」
「あっ、はい。でも、高橋さん」
「ん?」
中原さんにそう言って、再び書類に目を通していた高橋さんが顔を上げた。
「今日、会場には車で行かれますか?」
「ああ、そのつもりだが、何か持って行くものあるか?」
「はい。出来ましたら、矢島さんとその荷物達も一緒に乗せていって頂けませんか?」
「矢島さんと、その荷物達?」
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