麻衣ロード、そのイカレた軌跡/補完エピソーズ集
その6
夏美



午後4時過ぎ、南部家に到着した

「今日は悪いな、夏美。…そうか、やっぱり彼女の様子からも何かあったって感じだな」

「ええ‥、私もそう思う」

私は学校でのケイコの様子を南部さんに伝えた

昼前、保健室で寝ていたらしいこと、部活は顔だけ出してすぐに帰ったということを

「テツヤは2階にいるよ。夏美が来ることは言ってある。おふくろは6時前には戻るだろうから、それまでに話を聞き終えないとな。さっそくだが、いいか?」

「ええ、行きましょう」


...



トントン…

「テツヤ、夏美が来てくれた。中、入れてくれ」

眼前のドアは部屋の主から声が帰ってくる前に、ゆっくりと開いた

すると、テツヤ君は私の正面に現れた

そして、突然だった

「夏美さーん!オレ、オレさ…」

テツヤ君はいきなり私に抱きついてきた

すでに涙をこぼして泣いてる…

「テツヤ‥、とにかく部屋の中で話そうや…」

南部さんがそう言うと、テツヤ君は私を体から離し、「うん」と頷いた

目頭に手をあてがいながら…




...



「どうぞ…。散らかってますが…」

床にはギターケースが横たわり、壁にはアイドルのポスター…

いかにも今時の高校生といった部屋だった

私たちはジュータン敷の床へ、輪になるように座った

「テツヤ、横田ケイコちゃんと何があったか聞かせてくれ。お前の昨日の様子じゃ、ただの口げんかって感じじゃなかったし…」

テツヤ君はしばらく沈黙した

私たちはさらに言葉をかけることはせず、彼が口を開くのを待ったわ


...



ガタンゴトン、ガタンゴトン…

窓の外からは電車が通過する音が大きく響いた

それは、この部屋の静寂が非日常空間だぞ、というメッセージに聞こえた

そうか…、この家、線路のすぐ脇だったんだよな

全力疾走の電車が通り過ぎたあと、テツヤ君は視線を伏せたまま話し始めた

だがそれは、ぼそぼそと、いつものテツヤ君とは程遠い暗いトーンだったわ…


...



「昨日の夜…、中央公園で黒沼の女の子と会うことになってたんだ…。どうしても…、話がしたいって。ずっと言われてたんだけど、オレ…、断り続けてた。でも昨日は、”来なきゃ、死んでやる”って錯乱状態でさ…、例の合同部活動ん時。そこにはおけい、まだいなかったけど…」

どうやら、テツヤ君の取り巻き連中の行動は、聞いていた以上にエスカレートしていたようだわ

「そしたら…、”誘って”来たんだ。香水匂わせて。そのうち服脱ぎだして、抱いてくれって…」

「お前!それで誘いに乗ったのかよ!」

南部さんは思わず大声を出した

テツヤ君の一言で興奮した南部さんからは、その体温が伝わってくる感じがしたわ

「南部さん、ここは落ち着いて…。ねっ…」

私は左手で南部さんのあぐら状態の膝に手を乗せて、それはたしなめるような口調だった







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