麻衣ロード、そのイカレた軌跡/補完エピソーズ集
その7
夏美



私たち二人は、テツヤ君に視線を移した

テツヤ君は顔をあげてキッパリ答えたわ

「オレ、拒んだよ。確かに、”そういう”欲求はあった。でも、おけいのこと本気で好きになってからは、他の女の子とはしないって決心してたから。でも…」

「でも…?」

「彼女、カッターナイフ出してきて…。抱いてくれなきゃ、ここで手首切るって…」

私は絶句して、再び南部さんと顔を見やった

「それでもオレはおけいのこと本気だから、できないって言ったよ。そしたら、”もう一人”がいつの間にかオレの後ろにピタッてくっついてて…。振り返ると黒沼の”それ系”の子で、しゃがんでるんだ。その子、果物ナイフをオレの背中に突き付けててた…」

「…」

「で‥、小声で言うんだ。とにかくズボンを脱いでって。それだけでいいからって。脱がなきゃ刺すって、はっきり言ってたよ。その子も涙声だったよ!」

私も南部さんも言葉を失っていたわ


...



茫然としている二人に訴えかけるかのように、テツヤ君の口は止まらなかった

「仕方ないからズボン下ろしたよ、オレ。隣の子は上半身裸で抱きついてきた。無意識にオレもその子の肩に手を回していた。そしたら…」

この時点で、テツヤ君の次の言葉は耳にするまでもなかった

「いるんだよ、そこにおけいが…。誰かに背中を押されたようで、つんのめりながら、俺たちの正面に膝を崩しちゃって…。わずかの距離でオレ、おけいと目と目が合ってさ。あいつ、すぐ立ちあがって、大声で叫びながら走り去っていったよ。俺は追いかけようとした。そしたら、岩本真樹子がニヤついて立ってるんだ。両脇には黒沼の子が二人で、”お願いだから行かないで”って、泣き叫んでたよ…」

ここでテツヤ君は床に両手を飛びこませて、泣き崩れた…

何と言うことだ…





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