あさまだき日向葵
「ええ!? 歌ってくれるのかと思った!止めるの? 触りだけ!?」
「あはは! そんな食いつくと思わなかった」
「聞きたかった! 意地悪。ねえ、どういうこと? ピアニストとか? 歌手?」
「いや、YouTuber!」
「ちょっと! 本気で答えてよ」

「あはは! えっと、医学部へ行く。医者になりたい。でも、そう思ったのは……ってか、そう思えたのは……最近なんだ」
「……最近?」
「そ。それまではミュージシャンやりたかった。結構歌えるんだけどなあ。でも、趣味で、こうやって誰かのために歌うのもいいなって、思ったんだ。そのくらい、医者になる決心が強い。今はね」
「聞いてもいい?」
「うん。俺んちさ、医者の家だから目立つのよ。5人兄弟って珍しくもあるしな。全員医者なるんでしょう? お金があるんだから医学部よねみたいに言われたわ。医者の息子だから、医者の息子の癖に。ガム噛んでても言われた。『医者の息子の癖にガム噛んでた』って。噛むわ、ガムは噛む!キシリトール噛む」
腹立たしかったんだろうけど、冗談にしてそう言った。

「家族も、何も言わないけど、そうするんだろうなって空気出てた。兄が医学部行って、姉が医学部行って、次は俺。何かその見えない誘導にもイラついて、反抗したけど、ある日、父親と二人で旅行へ行ったんだ。急にだぞ? 休み取って、行くぞとか言われて。どこ行ったと思う?」
「……え、どこ?」
「ボストン」
「ええ!?」
「なー、変な親父だろ?」

……発想と行動力がすごい。
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