麻衣ロード、そのイカレた軌跡➍/赤き牙への狂おしき刃
その11
麻衣



あ~あ…

みんな帰っちゃった

さっきまでは気が紛れていたせいか、顔面の痛みとかそんなじゃなかったけど、今は結構ジンジン来てる

私はカウンターに座り、氷をタオルにくるんでパンパンに腫れたほっぺたに当ててた

すると、2階から倉橋さんが降りてきたわ

「麻衣ちゃん、みんな帰ったようだね」

「はい。遠慮なく冷蔵庫の中身いただいちゃいました。すいません」

「いいさ。それより、顔、痛むのか?」

「大丈夫です。こんなもん、冷やして終わりです」

「…」


...


倉橋さんは奥のボックスのソファに腰を下ろした

「君はホントに女子高校生なのか?麻衣ちゃんのそばにいるとさ、時々、違うんじゃないかって気がしてくるよ…」

何言ってんだろ、倉橋さんは…

「…相馬会長との血筋が本当だかどうだかは、実際どうでもいい。君のそのイカレた振る舞いに、オレは惹かれてるんだ」

この人、こんな言葉を持ち合わせてるんだ…

「倉橋さん、それって、私を口説いてるんですか?」

「いや、違う。相馬会長に対する気持ちと同じだってことだよ。悪いが、君を口説く対象の女としては見れない」

倉橋優輔め、なにもそんな身もフタもない言い方しなくてもいいじゃんか!

「倉橋さん、私帰ります。今日はお世話になりました。剣崎さんには明日、連絡しておきます」

「おいおい…、気を悪くしたのか?麻衣ちゃん…」

「ううん。でも、あと半年か1年も経ったら、あなた、今と同じこと口になんかしないわ」

「どういう意味だい、それ?」

「自分で考えて、そのくらい。それ、見当つかない程度じゃ、相馬さんの心の髄なんて理解できないわ。じゃあ、おやすみなさい」

私はヒールズを出た


...


今日、私は真樹子さんに、迫田リエと津波祥子の違いをこう表現した

前者は目の前の”危険”に駆りたてられ、後者は目の前の”カベ”に熱くなると

では、私は一体…

フン、そんなの…

とっくの昔に承知してることだわ、アホらしい

今晩の”クスリ”は顔面の痛み止めも兼ねて、いつもより多めに”盛った”





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