うそつきな唇に、キス




面倒そうな声音とは裏腹に、これまた愉快げに嗤うタトゥーの男は、ふと円卓の間にあるひとつの扉を見やった。

そして、はあ、とひとつため息をついたのち、上げていた足をおろし。



「……若くんも、苦労すルなあ。無垢で、無慈悲で、存在しないはずの人間を匿うナんて」



いつもの口調に戻った男は、さきほどよりも顔にのせる酷薄な笑みを濃くした。



「若くん、もしも、もしもやデ?もし────若くンを狙ったんがえるちゃんやったら、どないする?」



その底意地の悪い言葉を投げかけられた男は、ゆっくりと瞳に宿していた仄かな光を消失させた。



「……愚問だな」

「へえ、それはマたなんでなん?」

「そのような事実はこの世のどこにも存在しない(・・・・・・・・・・・・・)からだ」



いつもと変わらない表情で、いつもは言わない言葉を吐いた漆黒の男に、きょとりと一瞬鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたタトゥーの男は、瞬きをする間に弾けるように笑い転げた。それはもう、腹が捩れるほどに。



「クひっ、ははははは!!!!あ〜、なるほドなあ?ソら僕でもそうするわ。……っちゅーか、なんで若くん、毒わザと呷ったん?絶対気ヅいとったやろ?」



心底興味深そうに片眉をあげたタトゥーの男は、口端を上げる。

その問いかけに、漆黒の男はなんの躊躇いもなく呟いた。



「……えるに毒の知識がどれほどあるのか知りたかったからだが」



その一言は、残酷か、あるいは無慈悲か。

はたまた、裏切りか。



「さっきの若くんの無慈悲やない発言になんでか違和感が仕事しとらんと思っとったら、まさかのここでの伏線回収のたメやったとは……」

「…………、」

「若、そんな訳わかんねえみたいな顔すんなよ……。そんで俺を振り向くな……。俺にもわかんねえんだから……」



ひとりの苦労尽くしの言葉が円卓に充満した直後、腕と足を優雅に組んだ漆黒の男も、ふと扉を見た。刹那、扉はゆっくりと開け放たれ、ぞろぞろと入ってきた人間により、五つの空席が埋まっていく。










────こうして。

またひとつ、嘘を重ねた夜の闇が、彼らを覆い尽くしていった。



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