うそつきな唇に、キス
「……える、」
「はい。なんですか、若サマ」
にこりと微笑みを形づくり、困惑する琴と睿霸そっちのけで、眉間の皺をなくした若サマへと向き直った。
その先にある、言葉を待ちながら。
「……えるは、琴吹と会ったことがあるのか?」
……既視感とは。
確か、一度も見たことがないのに、すでにどこかで見たことがあるように感じられること、だったかな。デジャヴとも言うはず。
それを、琴がわたしに感じた。わたしに会ったことがないはずなのに。
記憶違いか。あるいは気のせいか。
もしくは─────。
そんな疑問を皆一様に抱き、教室全体がひとつの結論に落ち着こうとしていた。
……が。
「……まさか。会ったことなんて、あるはずないじゃないですか」
軽い口調とともに、吹けば飛び去ってしまうほどの軽さの笑いがわたしから落とされ、琴と睿霸が落胆したように肩を脱力させた。
「まじか……、っていやまて、俺とじゃなくて若とだったら、」
「若サマもないですよ」
「……だよなあ」
琴の追随もすぐさま叩き落とした結果、なぜか見覚えのある既視感だけが、落とし所を失ったまま宙に浮いた。