うそつきな唇に、キス




「……というか、そもそも琴、わたしに見覚えあります?」

「…………いや、ないから戸惑ってんだよな」

「えッ、ないん?!」

「〝える〟には見覚えなんてないですよ。俺言ったじゃないですか。えるが言ったっていう言葉に既視感がある、って」




えるなら、俺一度でも見たら忘れない自信しかないですし。


なぜかそう断言する琴に、今度は睿霸が困惑顔を移されたように顔を歪めた。




「えええ、ジゃあ若くんは?さっキからなんや考え込んどったけど、若くんも実は見覚えあったりせんの?」

「………、お前は一体何を言っている」

「へッ?」




本気で若サマの言葉の意味を理解していなさそうな睿霸と、本気で睿霸の言っていることに心当たりがなさそうな若サマ。

そのふたりを見て、琴も首を傾げていて。


ああ、ほんとにわかってないんだと、苦笑いしながら口を挟んだ。




「……若サマは別に、わたしに見覚えがあったから考え込んでいたわけじゃないんですよね」

「………ああ」

「はッ?!じゃあなんデさっきあんな小難しい顔しとったん?!」

「…………えるの男口調を珍しがっていただけだが」

「ソんだけのことをあんな顔で考えとったん?!」




呆れたように睿霸が叫んだのを見て、若サマはその倍の呆れを滲ませた声音を言葉に乗せた。




「……いくらおれが他人に興味がなく、今まで顔を合わせてきた人間を誰一人として覚える気がなくとも、えるは憶える」




だから、わざわざ思い出して悩むようなものでもないと。

そう、言い切った。



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