恋の仕方、忘れました

「主任、仕事のメールですか?」

「……」

「それとも、噂の彼女ですか?」

「……」

「もー主任はすぐ黙秘する!」



主任が隣のお局に絡まれたことにより、メッセージのやり取りは終了した。


スマホをポケットにしまいながら二人の会話を盗み聞きする。
お局の言う“噂の彼女”とは、恐らく双子の妹のこと。

お局さん、残念ながら本物の彼女はすぐ後ろにいますよー、と心の中でドヤ顔をしていれば、隣の課長が「成海」と声をかけてきたことによってはっと我に返る。



「最近、益々調子がいいな」

「そんなことないですよ」

「いやいや、前以上に綺麗になったと皆も噂してるし、何かいい事でもあったか?」

「いえ、課長がフォローしてくださるお陰です」

「もーほんと成海は可愛い!」



別に課長にフォローされた記憶なんてないけれど、少し持ち上げれば躊躇なくセクハラ発言を浴びせてくる彼は、お酒のせいかいつも以上に声がでかい。


あー後で主任に怒られるかなぁと一瞬主任の顔が頭をよぎったけれど、主任は主任でお局を含む女性陣と何やら盛り上がってるみたいだから、恐らくこの会話は聞かれてないだろう。

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