恋の仕方、忘れました
それから30分くらいが経過して、あまりお酒が強くない課長は既に顔が真っ赤になっていた。
そんな課長の相手をしながら他の社員とも談笑していれば、突然課長の手が私の肩に触れた。
「そういえばこないだ成海の担当しているM産業の方とお会いしたんだけど、成海のことを褒めていたぞ」
「そうなんですか?」
その手を退けて、なんて言えない私は、引き攣った笑顔を向けながら相槌をうつ。
「仕事が早いのは勿論、ある社員が成海に猛アタックしているのに全然靡かないからそのガードの固さがまたいいって。担当が成海で良かったと仰っていた」
「……」
「お前はほんと仕事熱心だよなぁ。偉い偉い」
そう褒めながら、私の肩に触れている手がそこを撫でるように動く。
その動きはやけにねちっこく、とても不快だ。
けれどその手に気付かないふりをしながら、あー確かにやたら話しかけてくる男の人がいたなぁと、課長の言う社員を思い出す。
まさか猛アタックされてるなんて知らなかった。
でも残念ながら、私はガードが固いどころかすぐ流されてヤっちゃうような尻軽女なんですごめんなさい。
この会話を主任が聞いたら、きっと鼻で笑うだろう。
こんなクズな私を受け入れてくれた主任に感謝をしながら、課長の手をさりげなく払い除けた。
そんな主任は、今どんな会話をしているのだろう。
本当は熱燗を頼みたくて仕方がないけれど、酔わないようアルコール度数が低いチューハイを口に運びながら後ろの会話に聞き耳を立てる。