恋の仕方、忘れました
そりゃ確かにコミュニケーションは大切だけど。
でも寡黙キャラを貫くために私と席を離したはずなのに、いつもならスルーしちゃう話題まで答えてる。
こんな主任を見たのは勿論初めてだし、その相手があのお局ってだけで悔しい。
主任と付き合い始めて、段々と不安になることは減っていたはずなのに。
主任の私にしか見せないあの顔を、他の人に見られるのかと思うと普通に妬ける。全然落ち着かない。
それに、それに!
私だって主任の写真持ってないのに!
「課長、熱燗頼んでいいですか?」
「え、熱燗?」
後ろの会話に耐えられなくなった私は、持っていたチューハイのグラスをがんっとテーブルに置いて課長に尋ねる。
課長は一瞬きょとんとしてみせたけど、すぐに「おお、飲め飲め」と笑みを零した。
「成海は熱燗が好きなのか」
「そうですね。ビールばっかり飲む人は痛風にでもなればいいんです」
「え?つう……?」
「何でもないです」
小さく愚痴を零せば、聞き取れなかったのか課長が頭の上にハテナを浮かべる。
それを横目で確認しながら店員を呼び熱燗を注文すると、課長どころか私と同じテーブルにいた他の社員も不思議そうな顔でこっちを見ていた。
「成海って酒強そう」
「まぁ、人並みには飲めます」
決して強くはないですけどね。でも酔わなきゃ後ろの会話が気になって仕方ないんです。
そう心の中で呟きながら、声をかけてきた正面に座る先輩に「一緒にどうです?」と問いかけてみたけれど「俺はいいわ」とあっさり断られた。