恋の仕方、忘れました
「成海さんは主任とあまりお話されたことはないですか?」
「ま、まぁそうだね。主任は必要最低限のことしか口にしない人だし、仕事の話しかしたことがないよ」
まさか質問されると思っていなかった私は、咄嗟に嘘をついてしまった。罪悪感を感じつつも、何とか平静を装う。
どうやら嘘だと気付いていないらしい森岡君は「へえ」と相槌をうち、続けて口を開いた。
「主任ってほんと真面目な方ですよね」
「うん、そうだね」
「でも部下が失敗したらすぐにフォローしてくれるし、表情や口調だけに目を向けると怖いって感じるかもしれないけど、掛けてくれる言葉は全部優しい」
「うんうん」
「それに誰よりも遅くまで残って仕事してるのに、疲れを感じさせないところもかっこいい」
「…森岡君、主任にベタ惚れじゃん」
「はい、大好きです。あんな人間になりたい」
熱く語る森岡君の横顔はキラキラとして見えて、入社したての頃の自分と重なって懐かしい気持ちになる。
そしてこれだけ部下に慕われている主任にまた惹かれ、主任が褒められると自分のことのように嬉しく感じてしまった。
主任、かっこいいなぁ。私と違って皆に愛されてる。
今、後ろでお局の相手をしているのだって、決して主任が望んでいるわけじゃないことくらい分かってる。
場の空気を悪くしないよう、そして今後も彼女達に仕事を頑張ってもらえるよう、彼なりに気を配ってるっているのだ。
それなのに私は、ちょっと楽しそうにしている会話が聞こえただけで落ち着かなくてモヤモヤして。
きっとまた“すぐ悪いほうに考える”って叱られちゃうんだろうな。