恋の仕方、忘れました
「成海さんって、そうやって笑うんですね」
「……」
「そういう笑顔、初めて見た気がします」
森岡君は小さくそう零すと、手に持っていた徳利を無意識に傾ける。
私が慌てて「ちょ、零れるよ」と声を掛ければ、はっとした彼はそれをテーブルに置いた。
「すみません。破壊力が凄くてぼーっとしてしまいました」
「そんな大げさな」
「大げさじゃないですよ。だって、ほら…」
森岡君はそう言うと、周りの人たちをざっと見渡す。
それにつられて私も他の人達に視線を向ければ、数名がぽかんとした顔で私を見ていた。
目の前に座ってる先輩なんて「やべーもの見た」とでも言うように、口をぽかんと開けてパチパチと瞬きを繰り返している。
「成海さんって常に気を張ってるというか、言い方悪くするとキツそうなイメージがあったので、あんな顔で笑うんだって、ちょっとびっくりしました」
「…私そんなに怖い?」
「怖い…わけではないですけど、近寄りがたい雰囲気はあったかも」
「…そうなんだ」
何となく自分の立ち位置は分かってはいたものの、若干ショックを受けてしまう。
女だからといって舐められないよう、クールキャラを決め込んでいたのは確かだ。
主任とこういう関係になってから自分の中で崩れつつあったけれど、皆の中ではきちんと定着していたらしい。
だからって、そんな変な生き物を見るような目で見なくたっていいのに。