恋の仕方、忘れました

「ご、ごめんね。醜いものをお見せしました」



少し気まずくなった私は、誤魔化すようにお猪口に入っていたお酒を飲み干し、自分で注いだ。


いけない。今日は飲みすぎたらしい。今までこの飲み会でこんな失態をおかす事はなかったのに。


飲みすぎた、と自覚しているのに、またお酒を体内に取り入れた事に後悔しながら手で顔をパタパタと仰いでいれば、横から「可愛いですね」と耳を疑う言葉が聞こえてきた。



「笑顔、めちゃくちゃ可愛かったですよ」

「……」

「そっちの方が」

「成海」



するとその時、森岡君の声を遮るように聞こえてきたのは、私の心臓をいとも簡単に揺さぶる、あの声。



「熱燗、ちょーだい」

「……」



後ろから声を掛けてきたその声の主は間違いなく主任で、あっという間にそっちに意識を持っていかれた私は潤んだ瞳で彼を見る。


なんだか久しぶりに声を聞いた気分だ。

酔ってて気分が良いし、さっき主任の話をしたからかとても愛おしい気持ちになって、ついその背中に腕を回したくなる。


その衝動を抑えるのに必死で、声を出せずにいたら森岡君が「しゅ、主任!俺がお注ぎします!」と声を張り上げながら彼にお猪口を渡した。



「森岡、成海と何の話してた?」

「え、えと、主任の話を…」

「へえ、俺?」

「は、はい!主任が大好きって話を!」

「……成海、ほんと?」



森岡君に向けていた視線が、ゆっくりと此方に移る。

それをうっとりしながら見ていれば、ぱちりと視線が重なった。



「俺のこと、大好きなんだ」



はい、大好きです。


ほんとは森岡君が勝手に喋ってただけだけど、思わず頷いてしまいそうなくらいには好きが溢れた。

でもそれを悟られないよう「えっ、と」と言葉を詰まらせると、主任は悪戯っぽく笑う。
それがやけに色っぽくて、胸がぎゅいんぎゅいん締め付けられるのが分かった。
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