恋の仕方、忘れました
主任がこういう場でこんなに喋るなんて絶対におかしいのに、森岡君も含め皆酔っ払っているからか誰も怪まない。
それを分かった上で、きっと主任は私の反応を楽しんでる。
「や、やべ、主任と話したいのに、急に尿意が!」
主任の声に瞳に指先に、全てに見惚れていれば、ふいにムードをぶち壊す声が割って入ってくる。
それは勿論森岡君の声で、大好きな主任と話が出来るチャンスなのにどうしてもトイレに行きたいらしい彼は「成海さん、主任を繋ぎ止めておいてください」と訳の分からない言葉を残し席を立った。
ちなみに課長はさっきから他の社員と話し込んでるみたいで、私に背を向けている。そのお陰で、自然と主任と二人だけの空間が出来る。
「成海」
すると彼は、森岡君に注がれた日本酒を一口流し込むと、ゆるりと口角を上げて私を見据える。
「さっき、どんな顔して笑った?」
「え、」
「俺にも見せて」
どうやら私と森岡君の会話を盗み聞きしていたらしい彼は、そう言葉を紡ぐと少しだけ距離を詰めてくる。
すぐそばには他の社員がいるのに、大胆な行動を取る彼に焦りながらも、拒むことなんて出来なかった。
「どんなって、」
「お前、ちょっと飲みすぎだろ」
「そ、そうですかね」
「おかしいな。一応禁酒令出してんのに」
「それは、主任がそばにいるからいいのかなって」
「いくら俺がいても、こんな大勢の前じゃ俺だってすぐに動けないってこと、分かるよな?」
「でも主任が……」
「……俺が?」
「……」
お局達と楽しそうにしているのを素面で受け止める事が出来ませんでした、なんて言えるはずもなく。
言葉を詰まらせた私は、ふいっと視線を逸らした。