恋の仕方、忘れました

「課長、ちょっと」



御手洗に行ってきます。そう逃げるように席を立とうとした、その時。



「成海はそんなやつじゃないですよ」



私の鼓膜を揺らしたのは、間違いなく彼の声だった。



「どこでそんな誤解が生まれたのか知らないけど、成海は遅くまで残って仕事をしているのを俺は知ってます。クライアントからも、彼女は真面目で仕事も早いと評価が高いです」



背中越しで聞こえる声は、普段の無愛想な彼とは違った。

優しさを孕んだその声音。けれど、お局に言い聞かすように力強いそれに、私の涙腺が崩壊するのは簡単だった。


それでもこんな所で泣くわけにもいかなくて、滲む視界でなんとか上を向いてそれが零れないよう我慢する。



「寧ろクライアントの男性社員に対してガードが固いっていう話も聞きました。だから、枕営業とかそういう事をするやつじゃないっていうのは俺が言い切れます」



それなのに、追い打ちをかけるように言葉を紡ぐ主任に、鼻の奥がツンとして、耐えきれず鼻をすすってしまった。
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