恋の仕方、忘れました

それにしても、あの主任が皆の前でこんなに喋ったことが今まであっただろうか。

いつだって無口で無愛想で、必要最低限な事しか口にしない彼が飲みの場に来ること自体レアなのに、彼女達とこれほどまでに言葉を交わたのは、初めてではないか。


さりげなく後ろを振り向いて横目で確認すれば、案の定周りの女性陣は口をぽかんと開けて唖然としていた。


それでも彼は続けて口を開く。



「むしろ、真面目過ぎてすぐに悩む。そして突っ走るクセがあります。なのでそこをベテランの皆さんが支えてあげてほしいです」



主任は固まったままでいるお局に視線を向けると、ふわりと笑みを浮かべる。



「特に小沢《おざわ》さん。成海は小沢さんのこと、尊敬してるって言っていたので」



小沢というのは勿論お局のことで、私が小沢さんのことを尊敬しているなんて言ったこともなければ思ったこともないけれど。

彼が平然と嘘を吐くと、お局は照れくさそうに顔を赤らめた。



「そ、そうなの?てっきり私は嫌われてるのかと」

「まさか。成海だけでなく小沢さんを悪く思う人が社内にいると思えませんけどね」

「主任、もしかして酔ってるの?そんなに褒めても何も出ないわよ」



そう言いながらも口元が緩みまくってるお局は、おほほほと笑い声を漏らしながら主任の肩をバシバシ叩く。


気安く主任に触れるなよ、と思わず間に入ってしまいそうになったけれど、それよりも今にも溢れ出しそうな涙を堪えるのに必死で、再び前に向き直った私は目の前のお酒を一気に口に流し込んだ。
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