恋の仕方、忘れました
「……え?」
「俺だって、今みたいにお前の話を聞けるし、優しく抱くことだって出来る」
「えっ、だっ、抱っ?!」
訳が分からずテンパる私を余所に、主任は話を続ける。
「だから今から試してみて、それでもまだそのクズのことが忘れられないようなら、お前はメンヘラ確定ってことで解決すんだろ」
「……それ解決してるんですかね」
「で、やるのやらねぇの」
「……主任、酔ってます?さすがに冗談ですよね?」
「さすがに部下にこんな冗談言わないし、お前ほど酔ってないと思うけど」
確かに呂律も回ってるし、酔ってる風には見えない。
でも普段と比べて明らかに口数は多いし言ってること無茶苦茶だし、顔に出ないだけでかなりキてるのかも。
だって普通に考えたらセクハラ発言だ。主任が言うとセクハラに感じないから不思議だけど。
冗談だと思いたい。…けれど、主任の表情は意外にも真剣で、こっちが笑って誤魔化せる雰囲気でもなかった。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
この歳までまともに恋愛してこなかっただけで、こんなにも拗らせてしまうものなのか。
やっぱり主任の言う通り、祐真さんが初めてだったから特別だと思い込んでいるだけなのかもしれない。
だって、祐真さんが優しいのはもう何年も前から分かってた。
でも彼を恋愛対象として見たことなんて一度もなかったのに、たった一度、酔った勢いで身体を重ねた瞬間意識し始めるなんて普通に考えたらおかしい。
初めてだからじゃなくて、その抱き方が優しかったから、実は祐真さんにとって私は特別な存在だったんじゃないかって思ってしまったわけだけど、でも実際、他の人を経験したことがないのにその抱き方が本当に優しかったかどうかなんて分からない。